July 30, 2010
先生への手紙~の巻
いつもそこに居てくれることが当たり前、と思っていたひとと急に会えなくなる日がやってきた。
もちろん仕事の関わりが無くなっただけで、会おうと思えば会えるわけだけど・・・
でも、もう、あの電話番号を押したらすぐ聞こえるあの優しい声を毎日聞くことは出来ない。
29年前、私が初めてこの仕事に就いた時にもう先生はそこに居た。
洋服の販売はお店に立ったその日から見様見まねで出来るけれど、洋服の構造や知識は
例えデザインやパターンの学校を出たとしてもなかなか解るものではない。
部分的なお直しも経験を積まないと、なかなか満足にはできない。
先生にお直し物を持って行く度に、コレをこのシルエットにするには、どこをどう直したら
良いの?と何度も聞いたり、何回直しても気に入って頂けないお客様には先生にショップに
来て見てもらったり・・・洋服屋になったばかりの私は全面的に先生にたよっていた。
何にも知らなくて【開き見せ】や【蹴回し】がどの部分のことなのか先生に教えてもらった。
一時間でスーツを全部直したり、お休みの日なのにディアマンテの急ぎの仕事のために
出て来てくれたり、本当に沢山迷惑をかけてしまった。
私の身勝手なわがままも先生に何度も言ったことがある
どんなことでも先生がNO!と言ったことは一度もない。
いつも無理を聞いてもらった後、先生ごめんなさいと謝ったら、「もう長いお付き合いだからね・・
・・良いのよ♪」といつも優しい声で言ってくれる。
先生はいつも穏やかで親切で、先生の声を聞くだけで私の仕事の不安が全部無くなる位だった。
だから先生がもう辞める、と聞いたとき、「困ります!絶対辞めないで!」と言えば、
「仕方ないわね・・じゃあもう少し続けるわ」って言ってくれると私は信じていた。
「先生・・・本気でこの仕事辞めたいと思ってる?」
「そうねぇ・・もうここで38年もやってきたのよ・・私の年も考えてみて。」
(先生は心斎橋パルコ縫製室で38年だがそのずっと前から縫製の仕事をしている超ベテランだ)
「先生は全然そんな年に見えないし、まだまだお若いじゃないですか!」
私がそう言ったとき先生は・・・
「カラダが動かなるほど年をとるまえに、今まで出来なかったことを、して置きたいって気持ちも
あるの・・」とすまなそうに言った。
ずっとずっと仕事一筋の先生がそう言うと、もう私は何も言えなかった。
先生は70歳代半ば・・・そう考えるのも無理は無い、今まで本当に長い間ずっと頑張って
来られたことは私が一番良く知っている。
たとえ別れることになっても、本当に大好きなひとには幸せになってもらいたい・・
先生にディアマンテの仕事をもうしてもらえないことは本当に残念だけど、先生にはゆっくり
第2の人生を楽しんで貰いたい・・私は初めてそんな感情が持てた。
先生、今まで本当に有難うございます。
もう先生があの部屋にいないことがどうしても実感として沸いてこなかったけど、この手紙を
書きながら色々なことを思い出し涙が止まりません・・・
最後に先生が私にくれた自宅電話番号を書いたメモを仕事のお守りとしてずっと持って
いようと思います。
ディアマンテマネージャーより